パッと見て分かる目次
第2章 チーム・メンバーを“やる気”にさせる認め方
レッスン1 認められることが成長の原動力
さまざまな承認の仕方
心理学者のアブラハム・マズローが提唱した「欲求階層理論 」は、行動や結果を承認してあげることが、人の成長に欠かせないことを示しています。
マズローの欲求階層理論モデル

このモデルでマズローが説明しているのは、「人は生きていくために必要な基本的な欲求を満たすにしたがい、もっと高い次元の欲求を求めて行動する」ということです。
必要最低限の人権が確保されている社会では、赤字レベルの欲求は満たされていると考えられます。そうすると次に人が求めるのは、「他者とのつながり」「他者から認められている実感」です。

⇒このように、自分の“居場所”があると実感できることで、社会的欲求が満たされます。
社会的欲求を満たした人は、次の段階として承認されたいという思いを強くもちます。では、プロジェクト環境で承認欲求が満たされているのは、どんな状態のことでしょう。

⇒このように、確保した自分の“居場所”で、共にいる人々から自分の価値を認められていると実感できることで、承認欲求が満たされます。
レッスン2 チーム・メンバーが素晴らしい結果を出したとき
4つの承認方法を使い分ける(1)ほめる
チーム・メンバーが仕事において役割を十分にはたしたときには、ほめ言葉をおくってあげましょう
もちろん、期待以上の結果を出したときも同様です。
やるべきことをやるのは当たり前だから、ほめる必要はないと考える人がいます。しかしこれは人の成長を促すうえで、正しい考え方ではありません。レッスン1で述べたように、だれもが承認欲求をもっているうえ、仕事ではプロジェクト・マネジャーからの承認が達成感をもたらすからです。
そして、この達成感が次の行動の原動力になります。その仕組みを心理面から見ると、次のようになります。
●ほめられたチーム・メンバー

⇒このとき、チーム・メンバーはこれまでの仕事に をもっています。
プロジェクト・マネジャーからほめてもらうことで、もっと強い が味わえます。そうすると、またよい気分を味わいたいので、次のチャレンジに前向きになります。
●ほめてもらえないチーム・メンバー

⇒プロジェクト・マネジャーからの反応がないと完了したはずのことに がよぎります。
「ちゃんと仕事ができていないのでは?」という が出てくると、これまでのことが気になるので次のチャレンジ意欲がわきにくくなります。
●ほめ言葉をおくるときの基本

レッスン3 チーム・メンバーの仕事が50点くらいのとき
4つの承認方法を使い分ける(2)認める
期待どおりの結果を出したときに比べて、何割か期待に応えてくれなかった部分があると、チーム・メンバーを承認することは難しくなります。しかし努力した結果や仕事への取り組み方を、しっかり見てあげることが大切です。少なくとも「ここは、ちゃんと認めてもらえた」という事実が、レッスン2で取り上げた完了感や達成感につながるからです。
不十分な結果で妥協させるためではなく、さらによい結果を求めて行動する意欲を引き出すための承認が必要なのです。
レッスン4 チーム・メンバーが仕事で失敗して落ち込んでいるとき
4つの承認方法を使い分ける(3)共感する
仕事で出すべき結果を、まったく出せなかったチーム・メンバーを承認する・・・というのは、たいていのプロジェクト・マネジャーにとってイメージしづらいことでしょう。
しかし、ここに承認という言葉の中にある深い意味が関係してきます。

もう一度レッスン1の「マズローの欲求階層理論」を思い出してください。人は承認されたいから、前向きに行動するのです。存在を否定されるということは、承認欲求より下位の欲求である所属欲求(居場所を確保したい)が満たされていないということです。下の欲求が満たされないうちは、そこに意識がとどまります。したがって、前向きに行動することは難しいのです。
- 徹夜続きで身体がまいっていたんだな
- まったく予想していなかった結果だから驚いたでしょう
- ものすごく悔しいのは、私もよくわかるよ
- この苦しさは、以前私も何度も経験したなあ
- あと一歩のところだったから、よけいに悔しいよね
- ふがいなかったという思いは、よくわかったよ
レッスン5 チーム・メンバーが仕事について言い訳をしたとき
4つの承認方法を使い分ける(4)理解する
期待した結果は出せず、それについて落ち込んでいるわけでもなく反省も感じられない。そんなチーム・メンバーに対しても承認が必要です。これは第1章レッスン5で取り上げた傾聴のスキル「異なる意見を冷静に受け止めるための自己管理」と、密接に関係するものです。
このような一番承認しにくいチーム・メンバーに対して、プロジェクト・マネジャーは感情的になることが多いと思います。しかし言い訳が多いようなチーム・メンバーは、何か克服できない問題を抱えている可能性が高いのです。そんな相手を感情に任せて怒るだけでは、問題解決どころか逆効果になる危険性が高いのです。
例を見てみましょう。

お互いが言いたいことを言っているだけで、話が堂々めぐりになってしまいます。これでは何も改善されません。次のページでどのようなイメージでチーム・メンバーを承認するのか考えてみましょう。

ポイントは次の2点です。
理解したことを相手に示す・・・ここでの承認
言い訳ばかりするチーム・メンバーに対して、その意味を理解する承認の言葉とは
- 要するにあなたは、わるいのは取引先の担当者だと思っているのね
- つまり、うまくいかないのは、先輩に問題があると言いたいの?
- 自分に向いていない仕事ばかりやらされていると思っているのね
- 1人で忙しくしているのに、だれも協力してくれないと感じているわけ?
- そう、もうお手上げっていう言葉しか出てこないわけか
- 言いたいことがよくわからなかったので、もう一度わかりやすく言ってくれないかしら
相手の言い分の要点をまとめる
ポイントがつかめなければ確認する
仕事の結果も取り組む姿勢も、まったく評価できないチーム・メンバーへの承認とは「それでも君の話はしっかり受け取ったよ」ということを伝えること。
この章のまとめ
この章では以下のことについて学びました。
- 人は承認欲求を満たすために前向きに行動する
人はだれでも自分が必要とされていて、周囲の役に立てたという実感が得られると生き生きとします。その喜びを味わうと、また同じような喜びを味わいたくて新たな目標に向かって行動します。
そのような習慣を多くの人がもっている組織は、活力にあふれたよい組織だということができます。そうしたプロジェクト環境をつくるために、プロジェクト・マネジャーはチーム・メンバーを承認してあげる必要があります。
- 期待に沿う結果を出したチーム・メンバーには、必ずほめ言葉を送る
与えた役割をはたすのは当然でも、望ましい結果を出したら承認してあげましょう。ほぼ期待どおりの結果、予想を超える結果など、出来栄えに応じた言葉を選びます。けっして大袈裟にならないようにしましょう。
- たとえ結果が不十分でも、できたところを認めてあげる
仕事で少しでもよい結果を出してもらいたいプロジェクト・マネジャーは、チーム・メンバーのできたところよりも、できなかったところに目が行きがちです。しかしチーム・メンバーのさらなる成長を促すには、まず努力して出した結果について、しっかりと認めてあげるべきです。「ここはできたね」「この点はよかった」と伝えることで、チーム・メンバーは希望をもって「さらなる改善点」を考えやすくなります。
- チーム・メンバーの「行為」と「存在」を区別して承認する
まったく結果が出せないときでも、その行動の問題点を追及するだけではなく、相手の存在を受け入れることも忘れずに。「○○がうまくできなかった」という後悔や自責の念など、チーム・メンバーの思いに共感してあげることが存在承認につながります。少なくとも存在は否定されていないということが、落ち込んだり自暴自棄になってわるい方向に進むことを防ぐ手立てにもなります。
- 共感の余地すらないときは、ひとまず相手のメッセージを受け取ったことを伝える
どう考えても間違った行動をとっており、その反省もないチーム・メンバーに対しては、プロジェクト・マネジャーも感情的になりやすいものです。しかし感情に任せて怒りをあらわにしても、問題の多いチーム・メンバーの改善は期待しにくいでしょう。相手に何らかの気づきを与えるには、まずまともな話しい合いのできる環境をつくるべきです。そのためには、どんな言い分にも一度は耳を傾け、「言いたいことは理解した」と伝えることから始めましょう。

当サイトをご覧いただきありがとうございます。
第2章に続いて、第3章『理解を促し行動を変える、チーム・メンバーに“伝わる”叱り方』をご覧ください。